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産業末期の輝き「帆船効果」

ガス産業の最後の華ある技術はいつか陳腐化し、代わって新しい技術が登場する。新しい画期的な技術が登場するから、既存の技術が陳腐化すると言ったほうがよいのかもしれない。「炭素フィラメント電球」の発明か知らされると、ガス会社の株価は急落し、逆にエジソンの会社の株価は28倍ほどまで急騰した。新しい技術の登場に対して、市場経済はそれほどまでに過敏に反応したのである。このことはまた、ガス産業がいかにガス灯という照明分野に依存していたのかを証明している。歴史として、あとになってから振り返って眺めると、それまで隆盛を極めたある産業の末期に、新しい産業の登場を遅らせるような画期的な技術が、旧来の産業のなかで発生するという現象がしばしば見られる。焼けぼっくいに火がついて、再び明るく燃えだすのである。そのような状況に置かれた産業領域では、それまで蓄積されてきた技術が総動員され、その分野では最高に進歩した技術の成果が出現する。産業という大きなくくりでなくてもよい。特定の製品や技術分野のなかでも、同じことが起こる。ガス産業における「白熱ガス灯」が、まさにそのような典型例であった。新たに登場した電気産業には、輝かしい未来が約束されていた。白熱ガス灯は将来を見放されたガス産業の最後の象徴的な抵抗、長い歴史をもつ、炎を利用した明かりの最後の輝きというわけである。結果として、電球はガス灯を追いやり、また石油ランプを追いやった。ガス産業は明かりという市場を失うが、暖房と炊事という炎のほかの二つの機能に活路を見出していく。生まれたばかりの石油産業もまた、オイルランプという明かりの市場を失うが、すぐに自動車という巨大な市場を見出し、生き延びていくことになる。白熱ガス灯は衰退していくガス産業の最後の象徴として発明された、という見方は、マクロにはたしかにそのとおりなのだが、ミクロな見方、つまり白熱ガス灯を発明し、事業を行なって成功させたウェルスバッハには、そのような意識はまったくなかったはずだ。彼はガス産業のために仕事をしたのではなく、白熱ガス灯は、彼が人生を捧げてきた希土類元素化学とその応用研究の必然の結果にすぎなかった。実際に金属フィラメント電球を最初に製造販売したのは、エジソンよりも早かった。自らが行なっている研究が将来の衰退が見えてきた分野の最後の炎の輝きなのか、それとも新しい未知の分野の最初の小さい炎なのか。いつの時代でも、どのような分野でもイノベーターを悩ませる問題なのである。新たに登場した電気産業の電灯と、旧来のガス産業の白熱ガス灯との間で見られた現象は、19世紀後半に帆船と蒸気船との間でより典型的に起こったので、「帆船効果」と呼ばれる。旧来の帆船の技術が新たに登場した蒸気船によって著しく改良され、かえって帆船が活躍する時代を長引かせたのである。船の世界で見られた「帆船効果」とはどのようなものであったのだろうか。